今どきの大人達なんて

 私がまだ、中学の教師をしていた頃のことだ。早朝、修学旅行に出発するため、JRの駅に200名近くの生徒達が集合した。駅前広場に整列するはずだったが、その日はあいにくの雨。多少窮屈だったが、改札前広場に整列した。
 今までにも、苦情の電話が学校に入ったことがある。
「話をするなとは言いません。だけど周りの人への迷惑を考えて、小さな声で話しましょう。」と、私は言った。いじらしいほどに小声で話す子ども達。
 するとそこへ一人の中年女性がやってきて、駅員に向かってこれ見よがしにわめき立て始めた。
「こんなところに並ばれたら、邪魔よ。うるさいでしょ」
 本降りの雨の中、大きな荷物を持った生徒達に、傘を差して外で整列していろというのか。
新幹線に乗り込めば乗り込んだで、車掌に猛然と抗議する初老の紳士。専用車両だったはず、と乗務員に確認すると、指定席が満員だったため承知の上で予備席に乗車してもらったとのこと。彼の時代には修学旅行などなかったのだろうか。それとも旅館で、枕投げを楽しんだ口か。
 校則問題がさかんに取り沙汰されたときも、そうだった。「教師が子ども達を縛り付けるようなことをするからいけないんだ」などと言いながら、いざ目の前に子ども達が現れると、「うるさい」「マナーが悪い」と、苦情を言ってくる。それこそ、「じっと座っていなさい。新幹線車中でのトランプは禁止です」なんてことはしたくないとも思うのだが。

 こんなこともあった。生徒会の企画で、子ども達が学校の周辺のゴミ拾いをしていたときのこと。数人の女子生徒がひどく憤慨している。話を聞いてみると、小型トラックの運転手が火のついたままのたばこを投げ捨てていったという。
「あれって絶対、嫌がらせだよ。私たちがゴミ拾いをやっているのをわかっていて、わざと目の前に捨てたんだよ」
 しばらく憤っていた彼女達だが、最後には、「今どきの大人達なんて、あんなもんだよ」という結論にたどり着いた。
 生徒が通りがかりのドライバーに怒鳴りつけられたこともあった。「大勢の生徒がうろうろしてやがって、危なくてしょうがない。学校はどんな指導をしているんだ」というわけだ。たしかにすべての生徒が真剣にゴミ拾いに取り組んでいたわけではないだろう。しかしどちらが本当なのか。中学生がボランティア活動をしているのが分かっていて、そこを猛スピードで走り抜けようとするドライバーと、徐行をしながら、車窓越しに笑顔を見せるドライバー。気持ちがささくれ立っていた生徒が、ごくろうさま、がんばってるな、と声をかけられたと言って、得意気な笑みを浮かべていたこともあった。

小野村哲